人魚姫4 | 孤独が好きな寂しがりやBlog

人魚姫4

;人魚姫1 @前章の前章の(以下省略)@wrote on 05月10日 04時56分20秒

;人魚姫2 @前章の前章@wrote on 05月13日 01時02分16秒

;人魚姫3 @前章@wrote on 05月19日 07時59分25秒

;●●●書き始め●●●

;5/21 1:00


フィリックスがフィリアを抱いて以後、フィリックスは変わった。


それまでは貴族女性などとの「恋愛遊戯」をしない「堅物」と称されていたが、

社交パーティなどにおいて、淑女や令嬢に積極的に話し掛けるようになった。


その理由を他人に聞かれて曰く―――


「今までは『接しにくい』と逃げ腰だったのですが、

 女性にも様々なタイプがある、と気付いて以来

 女性と歓談するのが楽しくなりまして―――」


とは言え、自分のベッドに女性を誘おうとはしていない。


幾人かの令嬢とは文通をしているのではあるが、

基本的に「観照する」という態度であって、

愛人を作るつもりは無いように見える。


宮廷雀の間では

「フィリア殿のような豊満・躍動的なタイプが好みでは?」

という風聞が立ち、「先物買い」に走る貴族が出てきた。


幾人かが王(祖父)を通じてフィリックスの侍女に回されたりもしたが、

それらはいずれも不発に終わり、

フィリックスはフィリアのみを寵愛している。


ただ、寵妃とはいえ、礼儀作法などは身につけねばならぬ。

それ専門の教師がフィリアに付けられるようになった。


当初、フィリアは嫌がったが、フィリックスの強い説得で

しぶしぶフィリアはそれに従った。


腰を締め付けるコルセット、鯨骨入りの膨らんだスカート、高いハイヒール、

高く結いつけられる髪、宝石を縫い付けた羽帽子や扇などを付けられ、

礼儀作法や言葉使いを学ぶ。


また、宮廷に出入りする人たちの身分の肩書き・爵位や領地、

そして親戚に誰がいるのか、そして家系。


それらを学ばされる。


フィリアは気晴らしにフィリックスに会おうとするも、

フィリックスは王族としての仕事があり、

2人が会えるのはそれらが終わった夜のみ。


元来、奔放な性格のフィリアにはそれが耐えられなかった。


フィリックスは王族としての自覚から、それを当然と思っている。


1日が終わり、フィリックスが私邸に帰ってくると、

はしゃぎながらフィリックスに抱きつき、甘えるフィリア。


「周囲の目もあることだし、そんな恥ずかしい真似はよしなさい」


そうフィリックスが窘めても、フィリアは改めようとしない。

愛くるしい表情をして「だって、フィリックス様が好きなんですもの」

と返されれば、フィリックスも返しようが無い。


そして、楽しいひと時を過ごす。


2人が抱き合う時、始めの頃は、フィリアはどうしてよいか分からず、

フィリックスがリードしていた。


しかし、フィリアが慣れてくるにつれ、性格ゆえか奔放になってきた。


惜しげも無く裸体をさらけだし大胆にフィリックスを求め、

フィリックスもむさぼるようにフィリアを愛撫する。


羞恥もつつしみも捨て去り、幼児のようにむしゃぶりついてくるフィリア。


フィリックスはそれを身体で感じる度に、

「自分しかこの娘を守れる者はいない」と思う。

そして、それはフィリックスを「男として」の自尊心を満足させる。


この娘は裏切れないな―――


そう思い、口にも出したフィリックスだった。


しかし、裏切る、という内容が、2人の中で差異がある。


フィリックスは「フィリア『を』愛する」という事。

フィリアは「フィリア『だけ』を愛する」という事。


その認識の差が、後に悲劇をもたらす事になる。


何故なら―――フィリアを人間にした老婆が言った言葉があるから。


「お前さんが恋焦がれる男が別の女と結婚したら、その男の命を貰う」


フィリックスから見たら、

自分の及ばぬところで交わされた理不尽な契約。


それがどのようになるのかは、フィリックスには確かめようが無い。






「―――婚約前提、ですか」


フィリックスが王の代理で赴いた国に着いてから。


国務尚書(大臣)に言い渡された言葉はフィリックスに衝撃を与えた。


無理も無い。


ただの親善にしては、自分(王族)と国務尚書が赴くには仰々しい、と感じてはいたが、

そのような裏面があるとは思っていなかった。


「さようです、殿下。

 この国には年頃のご令嬢が3人おりまして、当家と血縁関係を結びたい、

 と仰せられております故―――」


「それはいいとしても、

 それを前もって言わないというのは、如何なる所以か?」


「すでに殿下も20歳を過ぎております。

 そろそろ御伴侶を娶られてもよい年齢でして、

 年齢・家柄・実力を考慮しました結果、この国のご令嬢が最も―――」


「それで、親善を名目にして、その実は見合いに私を連れてきた、というわけか」


「さようで。現在、ご寵愛のフィリア殿は魅力的な女性ではありますが、

 殿下の伴侶としては、いささか不向きではあります」


「私の一生だ。それに横槍をいれようとするのは不愉快ではあるな」


じろり、と国務尚書を睨むフィリックス。

それを正面に見据えて国務尚書は続けた。


「では、殿下はフィリア殿が王妃として相応しいとでも?」


「……それは陛下が申された事か?」


「何がでしょう?」


「『王妃』という言葉だ。

 その言葉を裏返せば、フィリアを我が妻に迎えようとするなら

 王位にはつけぬ、とも取れるぞ」


「はい。もしこの訪問が婚約に繋がるようでしたら、

 陛下は『殿下を王太子に冊立する』と仰られました」


「なるほどな。

 王位が欲しければ、ちゃんとしたところから妻を迎えろ、という事か」


「さようで。事実、陛下にあらせましても、愛する者は寵妃として、

 妻はしかるべき所から迎えております。

 それも王族としての責務でもありますし」


「ふう……」


フィリックスは窓の外に見える夜空を見上げた。


「フィリアを手放せ、と言う話であれば、私も反発しようがある。

 また、フィリアが王妃に向かぬ、というのも分かる。

 王太子がいないまま陛下が崩御されると面倒だ」


「では……?」


「仕方あるまい。

 よもや先方も私に寵妃がいない、とも思ってはいないだろう」


「……これで私の肩の荷が下りました」


「気が早くないか。

 私が先方のご令嬢をまだ見てもおらぬのだぞ。

 もし、私が気に入らなかったらどうする?」


「それは気付きませんでした。

 ……確かに気が早かったですな」






一方その頃。


フィリアはフィリックスと会えぬ日々を鬱積したまま過ごしていた。


宮廷のパーティでは踊っていささかの鬱憤を晴らせたものの、

フィリックスがいない、というのでは気の晴れようがない。


貴婦人からは「礼儀作法がなっていない」と馬鹿にされるし、

いつも相手してくれるフィリックスがその場にいないと、

何をしていいのかすら分からない。


そんな中、パーティに出席した貴族や騎士の若い男性が

フィリアの美しさを称えていた。


彼らがフィリアの美しさを称える言葉は世辞ではない。

その世辞がフィリアにとってくすぐったかったが、

多少の自尊心を満足させるには役に立った。


これが、貴婦人の間で風聞の種になっていた。


さもあろう、礼儀作法に疎く、下賎の生まれ、豊満な肉体、踊り子としての側面。

そして好んで近づくのは若い男ばかり。


性質(たち)の悪い宮廷雀の間に、この風聞が醜聞に彩られた。


曰く、

「フィリア嬢は若い男なら誰でも近づける―――」


誰しもが、その言葉の裏を読み、底意地の悪い笑みを浮かべる。


そして、誰が近づいた、誰がフィリアを称える歌を歌っただのを話の種にする。

それが想像の翼を得て、誰々がフィリアを狙っている、いやすでに関係を持っただの、

勝手気侭に憶測が乱れ飛ぶ。


そんな中、一人のフィリックス付きの騎士に焦点が当てられた。

フィリアと同じ下賎の身で、体格が立派ながら愚鈍なイメージを持つ巨漢。


どこの馬の骨とも知れぬ、フィリックスを豊満な肉体で魅了したフィリア、

力強く女性を満足させうるであろう、下賎で巨漢な騎士。


同じ「高貴ならざる身分」故に、囃し立てられた噂は、

果てしなく、どこまでもエスカレートしていく。


あたかも、既成事実であるかのように―――






3週間の旅程を経て、フィリックスは宮廷に戻ってきた。


無論、見合いの感想を報告するためである。


結果は「長女に限り了承」。


先方からも、非公式ではあるが「長女であれば了承」の報告を受けているので、

事実上、婚約が成立した事になる。


もっとも、対外的に婚約を発表できるには、いくつかの下準備が必要である。


まず、フィリックスを王太子に冊立する。

そして、婚約の発表を行う。

結婚式の時期も発表する。


その間にフィリックスも、身を固めるために行動を行う事になる。

不必要なまでに寵妃も愛人もいないので、そちら方面では特に問題は無いが―――。


「フィリアには何と言えばよいのだろうか?」


フィリックスは気が重い。


無論、フィリアを手放すつもりは無いが、

家庭の序列―――妻と寵妃の違い―――をはっきりさせるのは、王族としての責務である。


フィリアが寵妃の地位に甘んじてくれれば問題無いが……。






いつものように、褥の上で愛し合ってから。


それを聞かされた時、フィリアはきょとんとしたまま、何を言われたのか分からなかった。


「結婚」という言葉。


セイレーンの世界では、基本的にも応用的にも一対の男女が添い遂げる事実こそが

「結婚」という言葉の意味だった。


しかし、人間の世界ではそれは違うらしい。


結婚せずとも、一生を添い遂げられる、という事。

それを把握するまで、フィリアはフィリックスに何度も問い掛ける事になった。


『フィリックスは私とは結婚しない』


『しかし、側にいて愛してくれる』


ようやく、それを飲み込んだのは、小一時間ほど経ってからだった。


フィリックスは疲れきって眠ろうとしたが、フィリアはその都度フィリックスに問い掛ける。


しかし、さすがにフィリックスも疲れきっており、眠りの邪魔をするフィリアをたしなめる。

「いいかげんに寝かせてくれ」と。


フィリックスが本気で怒りかけたため、フィリアは問い掛けるのをやめたが、

頭の中で悶々としていたため、その日は眠る事ができないまま、朝日を迎えた。





フィリアは頭の中が混乱したまま、幾日かを過ごした。


夜は眠れずに考え事をしているため、日中は眠くて仕方が無い。

そのまま、うとうととしてしまい、生活のリズムが乱れている。


そんな中、月の明るい夜、何かに誘われるようにバルコニーに出たフィリア。


バルコニーの下を通じる水路の中。

そこには、懐かしい顔……フィリアの姉たちが、そこにいた。


「フィリア、私の可愛いフィリア。

 話は……全て聞きました」


「お姉さま……」


フィリアは感極まって、濡れるのも構わず水路に飛び込み、姉たちに抱きついた。


「お姉さま……私……」


喉から溢れるのは、嗚咽の声。


ようやく落ち着いてから、フィリアは姉たちと語り合った。


「フィリア、まず話を整理します。

 フィリックスという殿方は、別の女性と結婚するのですね」


「……はい」


「それは、どういう事を意味するかご存知?」


「わたしとは……結婚しない……でも、お側に置いてくれる……」


「あなたがあの老婆と交わした約束は覚えているかしら」


「約束……?」


不安な面持ちでフィリアは姉たちを見回した。


「フィリアとフィリックス殿が結婚しない場合……のこと。

 あの時、あの老婆は何と言ったの?」


「確か……」


フィリアは記憶を辿って、老婆との会話を思い出す。


「確か……フィリックス様の……お命を……!!」


「そう……。私たちも、あの老婆にそう聞いたわ。

 フィリックス殿があなたと結婚するなら、わたしたちは心配しないけど……。

 私が心配するのは、あなたがどうするのか、よ」


「わたし……が?」


フィリアの姉たちは、真剣な面持ちでフィリアに問い掛ける。


「フィリア、あなたは……フィリックス殿が亡くなったら……どうするの?」


「え……そんな事、考えた事ない……」


「よく聞いて、フィリア」


「何……を?」


「フィリア……言いにくい事なんだけど……

 あの老婆は、こう言ったわ。

 『結婚しなかったら、フィリアも死ぬ』って」


「え……?」


「フィリックス殿は、フィリア以外の女性(ひと)と結婚してから

 次に月が満ちた夜に死んでしまう。

 フィリアは、次に朝日が昇った時に泡になって死んでしまう……」


「そんな……そんな話は聞いてない……」


「そう……だったの……。

 でも、もう……」


「お姉さま……私はどうしたら……」


「フィリックス殿は、あなたと結婚する以外に助かる方法は無い。

 でも、フィリア。

 あなたが助かるには、もう一つ方法があるの」


「え……?」


「あなたが……フィリックス殿を殺める(あやめる)事」


「……!」


「この銀のナイフをフィリックス殿の心の臓に突き立てて、

 流れ出た血があなたの足にかかったら、あなたはセイレーンに戻れる。

 そうすれば……あなたは助かる」


「そんな……」


「どちらにせよ結婚しなければ、フィリックス殿もフィリア、

 あなたも死んでしまう。

 だったら……」


「だからって、私がフィリックス殿を……ころ……し……。

 う……うぅ……。

 お姉さま……私……どうしたら……」


さめざめと泣き出すフィリア。

それを包むように抱きしめ、フィリアをあやす。


「フィリア、私たちの可愛いフィリア。

 私たちは、あなたの幸せを願っている。でも……。

 だから、あなたがフィリックス殿と結婚できる事を祈っているわ」


「う……うぅ……」


姉の胸で泣きじゃくるフィリア。


「フィリアが幸せになってくれれば、私たちの幸せになれる。

 フィリア、あなたが幸せになって欲しいの……」





日の光がフィリアの顔を撫ぜ、フィリアは目が覚めた。


頭の回転が鈍くぼんやりとしていたが、手にある「何か」で気付き、身体を起こした。


手にあるのは、鈍く光る銀のナイフ。


厳密にはナイフと言うより小振りの小剣と言った具合。

ナイフの鞘や柄は装飾が凝ってあり、鑑賞用にも耐え得るだろう。


ナイフを見ながら、フィリアは昨夜の事を思い出す。


『結婚しなかったら、フィリアもフィリックスも死んでしまう』


この事実を考えると、いたたまれなかった。


もし、この事実をフィリックスが知ったらどうするのだろうか?

フィリアは、この事実をフィリックスに話そうか、迷っていた。



【選択分岐】


1.

結婚しないと2人とも死んでしまう、とフィリックスを説得する


2.

このまま黙って説得しない。


;●●●ここまで書き終わり●●●

;5/21 4:30

;続き@人魚姫5 @wrote on 05月24日 13時50分46秒

;続きの続き@人魚姫6 @wrote on 05月24日 14時20分42秒

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3時間半もかけてこの程度(内容的なレベル)かよ、オレorz。


ちなみにファイルサイズは12KB。

数字だけは(多分)悪くは無いんですが……。


いや、物語展開に失敗したな~と思いながら書いてました。

プロットで考えてなかったのが失敗だったのですが、

選択分岐の前には

「フィリアとフィリックスの関係が少し冷めかけてきている」

というシチュエーションが必要でしたからね。

そしてそれを裏付ける「噂(悪評)」と。


この2つのシチュエーションがあって初めて2.の「説得しない」という選択肢が生きる(女性としての覚悟(?)が出てくる)んで、そのあたりちょっと失敗したかな。

いわゆる三角関係ですね。男2人に対して女1人。

最初のプロットでは、身分の低い騎士が相手だったんですが、途中で奴隷女に産ませた王の息子(フィリックスの血縁上の叔父)にしたら面白くなるかな、と宙ぶらりんのまま考えていたので、結局書かずに終わってしまった。_| ̄|○


まーもっとも、1.だろうと2.だろうと、フィリックス本人はフィリアと結婚する意思は無いんで、無駄な選択っちゃー無駄な選択なんですけど。

(一国の王子としてはそれが当然ですからね。ハプスブルグ家のフランツ=フェルディナント大公のような行動は例外ですし)

ただ、フランツ=フェルディナントのような行動(『皇帝を脅す(皇位継承を持たない男児がいない場合のみ)』)を取るとか、駆け落ち(普通はありえない)したらまぁ話は変わりますが……。


どちらにせよ、ここでの本線は「フィリックスがフィリアとは結婚しない」という事実「だけ」なんで、それ以外は枝葉っちゃー枝葉なんですが。

(銀のナイフ云々はアンデルセンの童話などのように、結婚式当日に貰えるし)


兎にも角にも、次回のファイナルでは○○○→○○未遂(あるいは遂行)→○○(あるいは○死)→○○という流れ……かにゃぁ?